この論文では、新たな曲面結び目の構成法として、自明なトーラス上の分岐被覆の形で表せる曲面結び目をトーラス被覆結び目と定義し、トーラス被覆結び目の性質を研究した。トーラス被覆結び目は、2つの可換な1次元のブレイドから一意に定まることを示した。これらの1次元ブレイドを基底ブレイドと呼び、基底ブレイドが次数mのブレイド$a$, $b$であるトーラス被覆結び目を記号 $\mathcal{S}_m(a,b)$で表すことにする。$\mathcal{S}_m(a,b)$の結び目群を計算する公式を求め、結び目群が1次元結び目群でない、トーラス被覆結び目の無限個の例を挙げた。リボン型のトーラス被覆結び目のクラスを構成し、上述の、結び目群が1次元結び目群でないトーラス被覆結び目はこのクラスに属することを示した。さらに、トーラス被覆結び目のカンドルコサイクル不変量を求め、1次元ブレイド$b$と$\Delta^n$ (ここで$\Delta$はフルツイストとする) によって定まるトーラス被覆結び目$\mathcal{S}_m(b, \Delta^n)$ のカンドルコサイクル不変量は、1次元結び目$\hat{b}$のカンドルコサイクル不変量と整数nによって表せることを示した。