金沢創発数理セミナー (Kanazawa Souhatsu Mathematical Seminar)

JST創発的研究支援事業 研究課題名:トポロジーを用いたグラフの変形過程の解析と応用(研究代表者:中村伊南沙)の支援の下、 トポロジーとの関連を探しつつ、さまざまな分野の枠を超えたセミナーを行いたいと思います。 興味のある方は世話人までご連絡ください。

世話人(2022年度):中村伊南沙(金沢大学)、浅野知紘(金沢大学)、滝岡英雄(金沢大学)(以上2022年4月から)、山崎晃司(金沢大学)(2023年1月から)
世話人(2021年度):中村伊南沙(金沢大学)
連絡先:中村伊南沙 (inasaのあとにアットマークとse.kanazawa-u.ac.jpを付けてください)

作成日:2021年6月16日
最終更新日:2023年2月23日



今後のセミナー予定


過去のセミナー

日時: 2023年2月14日(火)11:00-12:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:河内 明夫 氏(大阪公立大学数学研究所)
講義題目:Ribbonness of Kervaire's sphere-link in homotopy 4-sphere and J. H. C. Whitehead's conjecture
(Kervaireのホモトピー4球面内の球面絡み目のリボン性とJ. H. C. Whitehead予想)
アブストラクト:
M. A. Kervaire showed in 1965 that every finitely presented group with deficiency k, weight k and the free first homology of rank k is the fundamental group of a smooth sphere-link of component k in a smooth homotopy 4-sphere. Use the smooth unknotting conjecture and the smooth 4D Poincare conjecture. Any such 2-link is shown to be equivalent to a sublink of a free ribbon sphere-link in the 4-sphere, whose ribbon disk-link complement in the 4-disk is shown to have a finite aspherical 2-complex as a spine. Every ribbon sphere-link in the 4-sphere is also shown to be a sublink of a free ribbon sphere-link in the 4-sphere, so that the complement of every ribbon disk-link in the 4-disk has a finite aspherical 2-complex as a spine. This implies that every connected subcomplex of a finite contractible 2-complex is aspherical. This result is a positive partial solution of J. H. C. Whitehead Conjecture asking whether every connected subcomplex of every aspherical 2-complex is aspherical. In the lecture, the above results will be explained, and a further development of this conjecture will be explored.

Reference
A. Kawauchi, Ribbonness of Kervaire's sphere-link in homotopy 4-sphere and its consequences to 2-complexes. arxiv.:2212.02617

Date: 14:00--15:00 January 31st 2023
Place: Seminar room 3B532
Speaker: Hwa Jeong Lee (Dongguk University WISE)
Title: Petal number of torus knots of type $(r,r+2)$
Abstract:
Let $r$ be an odd integer, $r\geq 3$. Then the petal number of torus knot of type $(r,r+2)$ is equal to $2r+3$.

日時: 2023年1月5日(木)15:00-17:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:山崎 晃司 氏(金沢大学理工研究域)
講義題目:ホモトピー原理の圏論的構造
アブストラクト:
ホモトピー原理(homotopy principle)またはh-principleとは,トポロジーの手法を応用して偏微分不等式/方程式の問題を解く強力な道具である.
HirschとSmaleによるはめ込みの分類は現在ではHirsch-Smaleのホモトピー原理と呼ばれ,ホモトピー原理の初期のモデルとして知られている.
HirschとSmaleの結果はGromovによって一般化(Gromovのホモトピー原理)され,特異点論やシンプレクティックトポロジーなど様々な分野への応用が知られることとなった.
Gromov理論の整備は,現代的にはEliashbergらによる方法が支持されているが,Gromov自身による層理論的ホモトピー原理の手法もある.
層理論的ホモトピー原理において中心的役割を果たすのは,''擬位相空間"に値を持つ層と, ''可撓層(flexible sheaf)"である. ''擬位相空間"に値を持つ任意の層は,形式的切断の層と呼ばれる標準的な可撓層と,対角射と呼ばれる標準的な射を持つ.
可撓層とはあるモデル圏におけるfibrant対象のことであり,そこでは対角射がfibrant置換として解釈できるという結果を紹介する.
また,今後の研究計画として,層理論的ホモトピー原理の圏化,岡理論の層理論的見直し,その他の予想などについて概説する.


日時: 2022年12月20日(火)14:00-16:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:滝岡 英雄 氏(金沢大学理工研究域)
講義題目:結び目の4移動距離II
アブストラクト:
λ移動を結び目の局所変形とする。任意の結び目を有限回のλ移動で自明な結び目に変形できるとき、λ移動は結び目解消操作であるという。λ移動が結び目解消操作であるとき、自明な結び目を介して、任意の2つの結び目KとK'は有限回のλ移動で移り合う。KをK'にλ移動で変形するのに必要な最小回数をKとK'のλ移動距離という。特に、自明な結び目とのλ移動距離をλ移動結び目解消数という。本研究では、結び目の4半ひねりを0半ひねりに変形する操作とその逆の操作である4移動という局所変形を考える。4移動が結び目解消操作であるかは未解決問題であるので、無限大も許容して結び目の4移動距離を定義する。先行研究として、9交点までの結び目の4移動結び目解消数の表を作成した。本講演では、7交点までの結び目の4移動距離の表を示し、主にその下からの評価について説明する。本研究は、金信泰造氏(大阪公立大学)との共同研究である。

日時: 2022年12月19日(月)14:00-16:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:大森 祥輔 氏(早稲田大学 理工学術院 大学院先進理工学研究科)
講義題目:一般位相空間論に基づく物質の幾何学的パターンの表現
(Topologically Representation to Geometric Patterns of Matters)
アブストラクト:
近年、パーシステントホモロジーをはじめとしたトポロジーの見地に基づく物質の幾何学的パターンの研究が発展してきている。本講演では、最も基本的なトポロジーである一般位相空間論(ジェネラルトポロジー)に基づく幾何学パターンの位相表現に関する研究を紹介する[1,2]。
幾何学パターンは、一般位相空間論の一分野である連続体理論(Continuum theory)[3]を用いて議論することができる。例えば、金属凝固過程などで出現するデンドライト構造は、単純閉曲線を含まないPeano連続体として記述できる。本発表では、まず一般位相空間論及び連続体理論について概説し、連続体理論の応用として自己相似フラクタルの位相的特性について簡単に言及する。その後、連続体理論の観点に基づいて、Cantor cubeなる位相空間による幾何学的パターンの位相表現について議論する。

[1] A. Kitada, S. Ohmori, and T. Yamamoto, J. Phys. Soc. Jpn. 85 (2016) 045001
[2] S. Ohmori, Y. Yamazaki, T. Yamamoto, and A. Kitada, Phys. Scr. 94 (2019) 105213
[3] S. B. Nadler Jr., Continuum Theory (Marcel Dekker, New York, 1992)

日時: 2022年12月16日(金)15:00-16:30 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:伊藤 哲史 氏(富山大学学術研究部医学系)
講義題目:聴覚神経回路の機能構築の解明
アブストラクト:
コミュニケーション音声のような動物の生存に必要な音情報を検出する回路が脳幹から大脳皮質にかけて存在するはずであるが、その神経回路の詳細についてはわかっていない。神経回路を構成する神経細胞を分類し、それぞれの細胞種の配線と符号化する音情報について明らかにすることができればコミュニケーション音声の脳内符号化について解明することができると考えられる。このセミナーでは、聴覚神経回路の細胞種の同定、配線、符号化についてのこれまでの研究と今後の展望について概要を述べたい。

日時: 2022年11月2日(水)15:00-17:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:浅野 知紘 氏(金沢大学理工研究域)
講義題目:余接束における有理ラグランジュはめ込みの層量子化
アブストラクト:
超局所層理論においてはマイクロ台が基本的な概念であるが, ラグランジュ部分多様体の指定する方向にマイクロ台を持ち適切な性質を満たす層はそのラグランジュ部分多様体の層量子化と呼ばれる. 余接束の完全コンパクトラグランジュ部分多様体に対しては, その層量子化がGuillermouとViterboによって独立に構成されている.
今回は, より一般の有理ラグランジュはめ込みに対する層量子化の構成の試みについて話す. この場合には, Maslov類やStiefel-Whitney類といったトポロジカルな障害とReeb chordの存在という幾何的な障害が存在する. そのような状況でもある種の層を構成し, ハミルトン変形に対する交点数評価を導くことができるので, これについて紹介したい. 本研究は池祐一氏との共同研究に基づく.

日時: 2022年10月28日(金)15:00-16:30 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:淵上 剛志 氏(金沢大学医薬保健研究域薬学系)
講義題目:病態関連因子の特性を捉えた分子設計に基づくセラノスティクス薬剤の開発
アブストラクト:
がん、脳疾患、感染症などの様々な病態の治療や診断を目的とした薬剤開発には、標的臓器に加えて病態関連因子の特性を捉えた分子設計が必要となる。例えばがん細胞の病態関連因子を標的とする薬剤開発において、細胞膜上の生体分子を標的とする場合は薬剤の分子サイズに基本的には制限はないが、細胞内の生体分子の場合、生体膜の障害を乗り越えなければならず、より薬剤の分子設計に制限がかかる。また、脳組織を標的とする場合、血液脳関門を透過する必要があるため、一般的には分子量500以下のある程度脂溶性の高い薬剤開発が必要となる。一方で、脳内の多くの生体分子の中から目的の病態関連因子を選択的に認識する必要があるため、分子サイズの制限がかかる中での精密な分子設計が必要となる。感染症領域の薬剤開発では、標的とする病態因子を宿主側と感染分子側のどちらの生体分子に設定するのかで分子設計の方法が異なってくる。
 我々はこれまでに上記の様々な疾患を標的とした画像診断のための分子プローブ開発を行ってきた。また、現在所属の研究室では治療 (Therapeutics) と診断(Diagnostics) を一体化したセラノスティクス (Theranostics) を目指した機能性分子開発を目指して研究を行っている。がん領域では、がん特異性の高いsurvivinという細胞内タンパク質を標的としたペプチド誘導体を開発し、優れた膜透過性や細胞増殖抑制効果、さらには腫瘍モデルマウスにおいて治療効果が確認され、今後のがんセラノスティクス薬剤としての有用性が示された$^{1,2}$。また、脳疾患領域において、感染分子が原因の一つでもある致死性の脳神経疾患であるプリオン病発症の引き金と考えられている異常型プリオン蛋白質凝集体(PrP$^{\mathrm{Sc}}$)を標的とした核医学診断薬剤を開発してきた。その結果、脳内PrP$^{\mathrm{Sc}}$の非侵襲的な可視化できる薬剤開発に成功し、今後の臨床応用が期待される$^{3,4}$。また、現在創発的研究支援事業にてがんの血液診断から画像診断、さらには治療まで一元的に行うことが可能なセラノスティック薬剤開発にも挑戦している。本発表では最近得られたこれらの成果を中心に研究内容を紹介するとともに、病態特異的なセラノスティクスのための薬剤開発の現状と今後の課題について議論していきたい。

(参考文献)
1. I. Nozaki, T. Fuchigami, et al., Bioconjug Chem, in press.
2. T. Fuchigami, et al., Cancer Sci, 111, 1357 (2020).
3. M. Nakaie, T. Fuchigami, et al., ACS Infect Dis, 8, 1869 (2022).
4. T. Fuchigami, et al., Sci Rep, 5, 18440 (2015).

日時: 2022年10月26日(水)15:00-17:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:浅野 知紘 氏(金沢大学理工研究域)
講義題目:層理論入門2
アブストラクト:
前回に引き続き, 層に対する初学者向けの解説を行う. 今回は主に層の複体のなす導来圏や導来関手について話す. また, 導来圏を考える利点の例として, Kashiwara-Schapiraによる導来圏における畳みこみ距離とその安定性定理を紹介したい.

日時: 2022年10月19日(水)15:00-17:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:浅野 知紘 氏(金沢大学理工研究域)
講義題目:層理論入門1
アブストラクト:
層に対する初学者向けの解説を行う. 位相空間上の前層・層の定義および, 層に対する基本的な操作を扱う.

日時: 2022年10月12日(水)17:00-17:30 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:福田 哲也 氏(金沢大学大学院自然科学研究科)
講義題目:ジャイロイド構造を用いた減衰キャリッジの開発
アブストラクト:
切削加工で用いられる工作機械において,工具の位置決めを行う際の送り機構として滑り案内機構と転がり案内機構が存在する.これら機構の評価パラメータとして送り速度,剛性及び振動安定性を考慮すると,滑り案内は振動安定性と剛性に優れ,転がり案内は送り速度に優れる.したがって,両者はトレードオフの関係にあるといえる.また,現在産業界においては脱炭素社会への転換が求められている.したがって,炭化水素を主として構成され,送り機構のメンテナンスに用いる潤滑油の消費量は削減されなくてはならない.これらの観点から,スポンジなどの多孔質材料のように潤滑油を保持し,減衰力を発生させ,なおかつ機械材料として十分な強度を持った構造が存在すれば理想的である.そこで本研究では,近年の3Dプリンタの発展によって容易に造形できるようになった3次元周期極小曲面の一種であるジャイロイドに着目した.ジャイロイドは連続した空孔を持ち,多孔質材料とみなすこともできながら等方的剛性を持つ.よって,既存の送り機構における利点を並立した,ジャイロイドを用いた新たな振動減衰機構の案を紹介する.

日時: 2022年10月12日(水)16:30-17:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師: 若井 尚希 氏(金沢大学大学院自然科学研究科)
講義題目:非直交軸を持つ5軸工作機械における加工可能条件と加工領域の考察
アブストラクト:
5軸工作機械は並進3軸と回転2軸によって工具または工作物を動かすことで加工する機械である.その並進3軸はそれぞれ直交し,回転2軸はそのいずれか2軸まわりの回転を一般的であったが,加工・製造技術の向上により直交しない軸を持つ工作機械が開発されている.非直交軸を採用することで考え得る機械構造の数が増え,剛性,加工領域などの様々な特性の向上が期待できる.しかし,新たな機械構造の機械を作るには莫大な開発コストが必要となるため,事前にどのような効果が見込めるか見積もる必要がある.機械構造を変化させながら特性の評価を行うことが出来れば,工作機械に求められる様々な特性に対して最適化された機械構造の選出が可能になると考えられる.そこで,非直交軸を持つ5軸工作機械において任意な加工が可能となるような機械構造の条件,工作機械の特性の1つである加工領域における評価について考察した結果を紹介する.

日時: 2022年7月25日(月)15:45-17:15 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:加葉田 雄太朗 氏(長崎大学 情報データ科学部)
講義題目:曲面上のガウス写像と直交射影,それぞれの特異点の関係について
アブストラクト:
曲面上に定義した関数や写像の特異性に着目することで,特異点論は曲面の局所的な性質について多くの知見を提供している.例えば,ガウス曲率が0になる曲面の放物点(parabolic point)では様々な特異な現象が観察される.本講演では3次元ユークリッド空間内の曲面のガウス写像及び直交射影に現れる特異点について紹介する.ジェネリックな幾何学という文脈ではガウス写像と直交射影の特異点たちの差はあまり着目されない.しかし,一般の設定ではそれぞれの条件は実は一致しない.それらがどの程度違うのかということを中心に,具体的な絵とともに曲面の局所的な曲がり方の多様さの楽しさを紹介したい.

日時: 2022年7月25日(月)14:00-15:30 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:緒方 勇太 氏(京都産業大学 理学部数理科学科)
講義題目:回転面の離散化
アブストラクト:
四角形タイルによる曲面の離散化を、複比による特徴付け、Steiner公式、 離散平均曲率といった基礎事項から説明する。また時間が許せば、J. Cho氏と K. Leschke 氏との共同研究で得られた「離散Darboux変換」に関する結果についても ご紹介したい。

日時: 2022年8月22日(月)14:00-16:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:内藤 尚道 氏(金沢大学 医薬保健研究域)
講義題目:血管構築のメカニズム
アブストラクト:
全身に張り巡る血管は、血液を循環して栄養素や酸素を届け、老廃物を除去することで、組織の恒常性維持に貢献している。全長10万キロにも及ぶとされる血管の内腔は、1層の扁平上皮細胞である血管内皮細胞に覆われている。血管内皮細胞は、血管の機能を理解する上で非常に重要な細胞であり、生体内では臓器特異的な機能を果たすことが知られているが、現在の血管研究では、その細胞多様性に関する系統的な理解は発展していない。近年、血管内皮細胞には特有の表面抗原を持つ増殖能力が非常に高い幹細胞様の特殊な細胞が存在する可能性が報告されている。また骨髄血管においては骨形成に重要な特殊な表現型を持つ血管内皮細胞の存在が提唱され、肺では換気に特化した血管内皮細胞が提唱されるなど、血管内皮細胞の多様性に関する概念の転換が生じている。同時に血管構築のメカニズムに関しても新たな知見が明らかになっている。幹細胞性を持つ血管内皮細胞、さらには血管リモデリングによる血管構築機構に関して紹介したい。

日時: 2022年6月24日(金)14:00-15:30 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:中村 伊南沙(金沢大学理工研究域電子情報通信学系)
講義題目:Partial matchingの変形について
アブストラクト:
Partial matchingとは次数0または1の頂点と辺から成る有限グラフのことである。 Partial matchingはRNAの2次構造を表示するひとつの方法として使用されている。 本講演では、partial matchingを表す格子状の表示を与え、 2つのpartial matchingをつなぐ格子状のグラフの変形、および変形過程で現れる長方形の面積について考察し、 この面積を最小にするpartial matchingのペアとその変形の構成について述べる。さらに、今後の研究の方向性について議論する。 また、関連する話題として、結び目を用いたDNAの構造に関する既存の研究と、 その周辺の話題についても触れる。

日時: 2022年6月22日(水)16:30-17:30 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:古賀 紀光 氏(金沢大学理工研究域機械工学系)
講義題目:Cu/Fe積層材に形成する特異な超微細粒組織
アブストラクト:
金属材料中には様々な格子欠陥(空孔、転位、結晶粒界など)や析出物が存在しており、それらが微小単位で特徴的な構造(Microstructure)を形成している。このような微小単位での構造を金属組織と呼ぶ。金属材料の種々の特性は、金属組織と相関があり、金属組織を制御することによって様々な力学特性・機能特性の材料が創製されてきた。積層材は、異種金属を積層させ、熱間圧延により結合させることで作製される。本講演では、金属組織制御の基礎とCu/Fe積層材にて観察された特異な超微細粒組織について紹介する。

日時: 2022年6月1日(水)15:00-17:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室 (Zoomによる遠隔講義とのハイブリッド)
講師:池 祐一 氏(東京大学大学院情報理工学系研究科)
講義題目:位相的データ解析と機械学習への応用
アブストラクト:
位相的データ解析 (TDA) はデータのトポロジーをパーシステントホモロジーなどに基づき抽出する手法であり,物質科学や画像解析などに広く応用されつつある. 最近はTDAと機械学習を組み合わせる取り組みが盛んであり,トポロジー情報を盛り込んだ損失関数の設計やトポロジー情報の学習法などが研究されている. 本講演では,位相的データ解析について (1) パーシステントホモロジーとその安定性に関する理論,(2) 応用研究の最近の進展,の二つのパートに分けて説明する.



日時: 2022年4月26日(火)15:00-17:00 
場所:Zoomによるオンライン開催
講師:野島孝之氏 (九州大学 生体防御医学研究所)
講義題目:新生RNAライフサイクルを理解する
アブストラクト:
ゲノムにコードされた遺伝情報は必要に応じてON/OFFの制御を受けている。そのゲノム作動においてRNA polymerase II (Pol II) 転写装置が大きな役割を担っており、合成されたばかりのRNA (新生RNA) は種々のRNAプロセシングを受けて成熟または分解されることが知られている。しかしながら、RNAプロセシング反応が転写中に起きることやそれぞれの反応が影響しあって複雑に制御を受けているため、その解析が難しくゲノム作動機構には未だに不明な点が多い。我々のグループは、Pol II によるゲノム転写がどのように開始して終結していくのか、その一生 (新生RNAライフサイクルと定義する) を明らかにすることを目標としている。今回の発表では、我々が開発した新生RNA解析法によって明らかになったゲノム転写制御機構を中心に紹介し、今後の展望について議論する。

日時: 2022年4月15日(金)14:00-16:00 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室
講師:佐藤純氏(金沢大学 新学術創成研究機構)
講義題目:数理モデルを駆使した神経発生研究
アブストラクト:
脳の形成過程において多種多様な神経細胞が正確に産生され、形態や機能が異なる多数の神経細胞が集積して精密な神経回路を構築する。このような複雑な過程を数理モデルに置き換えることは困難であるが、着目する細胞、遺伝子を絞り込むことにより、現実的な数理モデル研究が可能となる。モデル動物であるショウジョウバエの脳は10万個もの神経細胞から成るが、哺乳類と比べればその数は限られている。進化的に保存された遺伝子セットを持ちつつも、遺伝子の重複が少ないため、限られた種類の細胞・遺伝子に着目したシンプルな数理モデルを構築することが可能となる上、強力なハエの遺伝学的手法を用いることで、シミュレーションから得られた予測を効率良く実験的に検証することができる。
 神経幹細胞は多種多様な神経細胞を産み、脳の発生において中心的な役割を果たす。ハエの脳の発生過程において、波のように神経幹細胞の分化が進行するProneural Waveという現象が知られており、これによって神経細胞の産生が時空間的に厳密に制御される。Proneural Waveの伝播機構についての研究成果を紹介する$^{1-3)}$。
 神経幹細胞から生み出された神経細胞集団は円筒状に集積し、カラムと呼ばれる脳の機能単位を形成する。しかし、発生過程におけるカラムの形成機構はほとんどわかっていない。カラムを構成する神経細胞間の接着力の差分によってカラムの基本構造が形成する機構について、研究成果を紹介する$^{4-6)}$。
 様々な動物の脳においてカラムは6角形状の規則正しい配置パターンを示す。同じ形状が隙間無く敷き詰められた6角形タイルパターンは脳のカラム構造だけでなく、昆虫の複眼やハチの巣において見られる。6角形は構造的に頑強で、各タイルの周長が短く、空間充填度が高いという物理的特性のため、生物においては6角形タイルが一般的になっていると考えれる。しかし、通常は6角形タイルパターンを示すハエの複眼も、ある種の変異体では4角形に変化する。従って、物理的な安定性のみに従ってタイルパターンが制御されているわけではないと考えられる。より単純なハエの複眼に着目し、タイルパターンの形成機構を解明した研究成果を紹介する$^{7)}$。
文献:
1) Sato M, Yasugi T, Minami Y et al.:Proc Natl Acad Sci U S A 113: E5153-5162, 2016
2) Tanaka Y, Yasugi T, Nagayama M et al.:Sci Rep 8: 12484, 2018
3) Wang M, Han X, Liu C et al.:Nature communications 12: 2083, 2021
4) Trush O, Liu C, Han X et al.:J Neurosci 39: 5861-5880, 2019
5) Han X, Wang M, Liu C et al.:Cell reports 33: 108305, 2020
6) Liu C, Trush O, Han X et al.:Nature communications 11: 4067, 2020
7) Hayashi T, Tomomizu T, Sushida T et al.:Curr Biol in press 2022

日時: 2021年11月9日(火)9:00-11:30 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室
講師:矢口義朗氏(前橋工科大学)
講義題目:ブレイド群による4次対称群の直積へのHurwitz作用について
アブストラクト:
Hurwitz 作用とは,群の直積への組みひも群による自然な作用であり,幾何的には例えば曲面を「ひねる」操作としても説明できる。自然数 $n$ を固定するとき,群 $G$ の $n$ 個の直積の元のうち,第 $1$ 成分から第 $n$ 成分までの積が単位元になるものを,$G$ のシステムとよぶことにする。組みひも群のシステム全体を Hurwitz 同値で分類する(Hurwitz 作用で軌道分解する)ことは,曲面組みひも(分岐被覆を用いて定義される 4 次元球体内の曲面)の完全不変量を与えることが S. Kamada によって示されている。組みひも群のシステム全体を Hurwitz 同値で完全に分類することは現段階では難しい。19世紀末,Hurwitz は対称群の互換のみからなるシステム全体を Hurwitz 同値で完全に分類した。これは(単純分岐被覆を用いて定義される)単純曲面組みひもの不変量を与える。この先,非単純な曲面組みひもの不変量を得るためには,対称群の互換以外の置換も混合したシステム全体における Hurwitz 作用も扱う必要がある。2010年頃,C. Sia と E. Beger は独立に,3 次の対称群(もっと広く二面体群)のシステム全体を Hurwitz 同値で完全に分類した。本講演では,組みひも群・Hurwitz 作用の定義,および基本的性質を紹介し,4 次の対称群の純粋システム(同じ長さの置換を並べたシステム)全体における Hurwitz 同値類の完全代表系を求めた結果を報告する。

日時: 2021年7月29日(木)14:30-16:30 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室
講師:松谷茂樹氏(金沢大学理工研究域電子情報通信学系)
講義題目:Robotic Cagingの数理
アブストラクト:
Robotic Cagingとは、ロボットによる幾何学的な囲い込みで物体を拘束する手法であり,その応用はロボットハンドの把持動作のみならず移動ロボットによる搬送にまで広範に至る。しかしながら,その数学的考察は十分になされているとは言えない。 本講演では、Robotic Cagingの概要と,講演者が考察したHamada, Makita, Matsutani, Mathematics in Caging of Robotics (J. Geom. Sym. Phys. 44 (2017) 55-66)の内容と,佐世保高専時代にCagingの視点から学生と考察した「最適な指の数は5本」の話を行う。

日時: 2021年6月24日(木)14:30-16:30 
場所: 金沢大学自然科学3号館3B532セミナー室
講師:松谷茂樹氏(金沢大学理工研究域電子情報通信学系)
講義題目:エラスティカの統計力学のモデュライ空間について
アブストラクト:
オイラーは,ヤコビ・ベルヌーイが提示した「平面内の弾性曲線の形状の 決定問題(エラスティカ問題)」を,ダニエル・ベルヌーイの弾性エネルギーと 最小原理の発見を基に,変分法,曲線の微分幾何,調和写像論,楕円積分,楕円曲線及びそのモデュライに対する代数幾何等の萌芽の構築,研究を経て,1744年 に完全な解決を行った.
このエラスティカ問題は,近年,建築や計算機デザイン等で注目されているが, DNAの超らせん構造の形状の数学モデルとして1980年代後半から着目されてきた.しかしながら,複雑な形状を呈する超らせん構造に比較して,最小原理に従う形状は3次元効果を考慮しても,遥かに単純な形状しか提示できないことが判っている.
そこで,講演者はエラスティカ問題の自然な拡張であるエラスティカの統計力学として,弾性エネルギーを考慮した平面上に解析的にはめ込まれたループ($S^1$)の モデュライの幾何構造を考察してきた.平面上にはめ込まれたループの等長かつ 等エネルギー流を考えることで,モデュライ空間には変形KdV作用素による自然なフィルター構造が導入されることが判る.そのフィルター性は超楕円曲線の種数に対応し,分類は超楕円曲線のモディライ空間の構造により定まることが期待されている.講演では,エラスティカの歴史を概観した後に,等長かつ等エネルギー流によるループ空間が分類される様子と,種数1に対応するオイラーの結果を主に紹介し,その超楕円関数版の概要を説明する.また,最近得られた種数2の超楕円関数によるループ族についてもコメントする.更に時間があれば,複素変形KdV階層,非線形シュレディンガー方程式階層による3次元空間内のループのはめ込みについても話をする.
金沢大学
金沢大学理工学域